コメ読み君は POPOPO で生まれた — 半年で消えた音声 SNS の話
コメ読み君はもともと、2026 年に半年だけ存在した音声 SNS「POPOPO」の非公式 Bot でした。なぜ作ったのか、どう広がったのか、サービス終了をどう迎えたのかを振り返ります。
コメ読み君は、X Spaces のために作られた Bot ではありません。もともとは POPOPO という音声 SNS で動いていた、非公式の読み上げ Bot でした。
POPOPO は 2026 年 3 月 18 日の 15 時に始まり、同年 9 月 17 日の 15 時に終わりました。半年に 1 日だけ足りない期間です。
サービスが消えると、スクリーンショットを撮ることも、「これだよ」と人に見せることもできなくなります。コメ読み君がどこから来たのかを、ここに残しておきます。
POPOPO とは何だったか
POPOPO のコンセプトは「カメラのいらないテレビ電話」でした。
ユーザーはホロスーツと呼ばれる 3D アバターを着て、喋ります。すると、そのアバターに映画のようなカメラワークと演技が自動で割り当てられます。笑いながら喋ればアバターが笑顔になり、沈黙が続けばカメラカットが遠景に引く。運営はこれを「プロ監督監修の『職人芸』カメラワーク」と説明していました。
狙いは「見られ感」の排除です。
顔を出す配信には、身構える負担があります。部屋を片づけ、髪を整え、画角を気にする。その負担が、喋りたいだけの人を配信から遠ざけます。かといって音声だけの配信は、画面が静止画のままで見る側が飽きる。
POPOPO はその両方を、音声から映像を作るという方法で越えようとしていました。顔を出さなくてよいのに、映像としては顔が出ている。
音声 SNS 自体は珍しくありません。Clubhouse があり、X のスペースがあり、stand.fm があります。ただ、それらはどれも音声だけを扱います。音声を入力として映像を出力する、そこが POPOPO の変わっていたところでした。
立ち上げの布陣も資金も、国産 SNS としては異例の規模でした。
スペースから始まる構造
ユーザーから見た構造は単純です。
まずスペースを作ります。スペースはプライベートな通話の場で、最大 30 人まで入れます。そのスペースから、ライブを開始できます。ライブを始めると、その通話がそのまま不特定多数へ開かれた配信になります。
つまり、閉じた通話と開いた配信が地続きでした。仲間内で喋っていて、おもしろくなってきたらそのまま配信に切り替える。そういう設計です。
配信にはコメントが流れ、パワーという投げ銭の仕組みもありました。
この「スペース」という言葉と、そこにコメントが流れるという構造は、いま X Spaces で動いているコメ読み君とほとんど同じです。舞台が変わっても、解いている問題は変わっていません。
祭りのあとに残った場所
立ち上げ直後の喧騒は長くは続きませんでした。
キャンペーン目当ての人たちは、3 日ほどで潮が引くように姿を見せなくなりました。厳密に測った数字ではなく、毎日その中にいた一人の印象です。
ただ、人が減ったことで場が死んだわけではありませんでした。むしろ残ったコアな配信者とリスナーのあいだで、独特の居心地のよいコミュニティが形作られていきました。
顔を合わせる必要がないからこそ、深夜でも気負わずに人が集まり、声だけで深くつながれる。そういうことが起きる場所でした。
チェンソーマンの最終回の夜、その場で会った人と朝まで喋って、あの最終回が何だったのかについて自分なりの結論を出せた。そういう時間がありました。
コメ読み君が生まれた理由
コメ読み君を作った理由は、単純な不便です。
配信で喋っているあいだ、手元の作業に目を落とすこともあれば、話に集中して画面から意識が外れることもあります。その間もコメントは流れていきますが、画面を注視していないと気付けません。
目を離していてもコメントに気付ける仕組みがほしい。 それだけでした。
誰かのために作ったわけではなく、最初は自分ひとりの不便を解消できればよい、くらいの気持ちでした。
AI ひろゆきの部品から
不便を埋める方法を考えたとき、手元にちょうど使える部品がありました。
その少し前、AIVTuber を POPOPO でやれないかと考えていました。アバターがあり、音声で駆動し、配信ができる。普通なら自分で用意しなければならない部品が、アプリを入れるだけで手に入るように見えたのです。
同じことを考えている人もいて、話しているうちに「AI ひろゆきがおもしろいのではないか」という話になりました。そして 2 人がそれぞれ別の AI ひろゆきを作りました。
作ったのは、論破王というひろゆき風のホロスーツを着て、ひろゆきの声でコメントに応答して喋る Bot です。裏側は Gemini でした。
スマホアプリしかない POPOPO に、外部のプログラムからどうやって割り込み、コメントを受け取って声を出させるのか。それを調べる過程で書いた自分用の SDK が、そのままコメ読み君の土台になりました。
AI に喋らせるための部品の向きを変えて、リスナーのコメントを喋らせることにした。 それがコメ読み君のスタートです。
手元の記録では、SDK の土台に手を付けたのが 2026 年 3 月 21 日。POPOPO が始まった 3 日後です。コメ読み君のコードを初めて書いたのは 4 月 2 日でした。
名前の由来
名前に「君」を付けたのは、「携帯動画変換君」へのリスペクトです。
携帯動画変換君は、PC の動画をガラケーや PSP で再生できる形式へ変換する Windows 用の無料ソフトウェアでした。POPOPO の取締役 CTO が作ったものです。
アイコンには、POPOPO のホロスーツからつながるロボットらしい姿を選びました。コメ読み君もスペースの中ではホロスーツを着て立つ存在だったからです。
声で誰か分かる、という発見
読み上げの声は、ユーザーごとに変えられるようにしました。
ユーザー ID から話者 ID を引く対応表を持たせ、!speaker で自分の声を指定するとそこへ書き込まれる。読み上げの直前にこの表を引き、登録がなければスペース全体の既定に落ちる。同じスペースの中で、A さんのコメントと B さんのコメントが別の声で流れます。
これは実装としては素朴ですが、使ってみると効果が大きいものでした。
画面を見なくても、声を聞くだけで誰が書き込んだか直感的に分かる。 画面から目を離したくて作った Bot にとって、これは狙い以上の収穫でした。リスナーにとっても自分のキャラクターを持てる楽しさがあり、スペースで歓迎される理由のひとつになりました。
この仕組みは、いまの X Spaces 版にもそのまま残っています。
突然の終わり
comeyomi.com を立ち上げた 1 ヵ月ほどあとの 2026 年 7 月 15 日、POPOPO はサービス終了を発表しました。終了日は 9 月 17 日。開始からわずか半年でした。
公式のお知らせに書かれていた理由は、「今後の事業環境やサービスの最適化を総合的に検討した結果」という一行だけでした。他社への売却でも縮小でもなく、一気にすべてを閉じるという決断でした。
発表の直後、開始当初のような活気が一時的に戻ってきましたが、それも 3 日ほどで落ち着き、また以前の穏やかな日常へ戻っていきました。
引き際について
非公式の Bot ですから、いつ公式にアカウントを止められてもおかしくない。ブロックされたらそこで終わろう、と最初から腹をくくっていました。
しかし実際には、手を引くより先に、動かす舞台のほうが消えることになりました。
寂しさがなかったと言えば嘘になりますが、それ以上に「走りきった」という感覚が大きかったのも事実です。
足元のサーバー 1 台で 24 時間動かし続けるのは、可用性を保つだけでも相応の緊張感がありました。他の開発にマシンを使いたくてもリソースを空けられない。電気代や維持コストをどうするか頭を悩ませてもいました。終了によってその重圧から解放された安堵感があったことも否めません。
けれど、深夜や早朝の作業枠で、たくさんの人がコメ読み君をスペースに呼んでくれました。あの合成音声が誰かの寂しさを紛らわせ、配信の空気を温めてくれた日々は、何物にも代えがたい経験でした。
コメ読み君は、最後の瞬間まで誰かの配信でコメントを読み上げ続けました。
そして X へ
POPOPO が終わったあとも、comeyomi.com は残しました。コメ読み君がたしかにあの空間に存在していた証としてです。
そして、ここで培ったリバースエンジニアリングの勘所と、自律回復する運用基盤と、コメ読み君という存在そのものを、眠らせておくつもりはありませんでした。
いま、コメ読み君は X Spaces で動いています。スペースがあり、そこにコメントが流れ、ホストは画面から目を離したい。解いている問題は、3 月に書き始めたときから変わっていません。
開発記を本にしました
POPOPO の仕様書のない独自プロトコルをどう解析したか、24 時間動かし続ける運用基盤をどう組んだか、といった技術的な詳細は、一冊の本にまとめました。
コメ読み君の本 — POPOPO 非公式 BOT 開発記(PDF / EPUB 版、BOOTH)
この記事で触れた話は、本の中ではもっと詳しく書いています。消えてしまったサービスの記録としても読めるはずです。